
心療内科に通い、処方箋通りに服薬しても、私の体調はなかなか回復してきません。普段の仕事の失敗は、ゆっくり行うことで減りましたが、職場で元気なく、ぼんやりとしてしまう時間は以前より増えてしまったようです。昼食もあまり食べる気にならず、ヨーグルトばかり。「ダイエットだよ」と話していましたが、だんだんと痩せていく私を同僚はだいぶ心配していたようです。
もしかして病院が合わないのかも、とクリニックを変えてみました。新しい病院は患者数の多いところで、初診で心理テストや問診はされたものの、あとはほとんどいわゆる「5分診療」。
私はあっさりと「うつ病」と診断され、トレドミン、デパス、パキシルなど複数の錠剤を処方されました。きちんと飲んだのですが、副作用が強く出てしまう体質だったのか、2週間経っても服用時の吐き気が長く続き、眠気もひどく、以前よりもかえって具合が悪くなってしまい、とても業務どころではなくなってしまいました。やっと副作用がおさまっても、状況はあまり変わりませんでした。
最終的に、主治医に診断書を書いてもらい、ひとまず休職を申請。しばらく自宅で休んで自分の心や体と向き合ってみましたが、将来のためにこれ以上病気を悪くしないよう、会社を退職することにしたのです。
退職までに相当迷いました。辞めたことはとても残念でしたが、実家に戻り、懐かしい匂いのする部屋で暮らせば、だんだんと落ち着きを取り戻してくるだろうと家族は思っていたそうです。実際、一見するとうつを発症する前よりむしろ元気で、自分でもこのまま薬物治療を続けながら治していけばすぐ良くなるような気がしていました。
ところがある日のこと。
部屋の窓から昼下がりの外を眺めていると、階下からバラエティ番組の音が聞こえてきました。すると、その音がだんだんと大きくなり、やがて観客の笑い声が鼓膜を突き刺すように聞こえてきたような気がして、いたたまれなくなりました。思わず力をこめてサッシを閉ざし、厚いカーテンで光を遮ったところで、頭の中では「消えたいの、もう消えたいの」という自分の声が繰り返し響き、状況がよくわからないままに目の前にあった薬をたくさん飲み、ベッドにもぐりこんで間もなく、そのまま意識を失いました。

気がついたのは、それから2日後の夜。家族の気配で目覚めた時、母が涙を浮かべていました。どうやら薬が効きすぎてしまったようです。命に別状はなかったものの、数日間は放心状態のまま。
そのことがあって以来、家族は私の体調をとても気にかけてくれるようになりました。私は申し訳ない気持ちでいっぱいで、何とか早く良くなりたいと思いつつ、でもできるだけあせらないように療養を続けました。